東京高等裁判所 昭和30年(う)3025号 判決
被告人 田部井善次郎
〔抄 録〕
被告人の検察官に対する昭和三〇年三月一九日附および同月二九日附各供述調書、原審証人横関栄一の供述(原審第二回公判調書記載)、横関栄一の検察官に対する供述調書その他原判決引用の各証拠を綜合すると、被告人は原判示日時場所において金員強取の目的を以て横関栄一の頸部に麻繩を掛けて引き絞めて、同人の抵抗を抑圧しようとしたところ、同人は呼吸困難になつて苦しさの余り金は出すから繩を緩めて貰いたい旨申し、之に対し被告人より、「ほんとうか、ほんとうか」と数回念を押すので横関が丁度被告人に釣銭として渡そうと思い手に持つていた金銭を被告人の足下近くに投げ出したところ間もなく被告人は繩を引き絞める手を緩めたが、横関は之により身体が比較的自由となるや直ちに平手で数回被告人を殴打して反撃を加え、その後は被告人から横関に対して暴行的態度に出ることなく、而して金銭強取の目的も遂げなかつたことが認められる。而して被告人が右の如く繩を引き絞める手を緩めた原因につき、所論は之を以て被告人が自己の行動の非を悟り全く自発的に暴行を止めたものとなすのであるが、前記の如く、被告人は、横関が金を出すと申した後も、ほんとうかと数囘念を押し之に対し横関が手にせる金銭を投げ出してから初めて繩を緩めたのであり、更に、前記被告人の検察官に対する昭和三〇年三月二九日附供述調書によれば、被告人は横関から殴りかかられた当時食物も十分採つていないので横関に再び暴行を加える気力もなく直ぐ同人に捕えられたものなることを認められるので、これらの点よりみれば、被告人は横関が真実金銭を被告人が入手し得る状態に置く意思あるものと思い繩を引き絞める手を少しく緩和した隙に直ちに同人から反撃的態度に出られ、これがため結局金銭強取の目的を遂げなかつたものと推認するを相当とする。故に之につき原判決において所論の中止未遂を認めず横関の抵抗による障碍未遂なりと認定したのは妥当であり、記録ならびに原審取調にかかる爾余の証拠および当審取調にかかる証拠を検討するも原判決には所論のような事実誤認の廉はみられない。論旨は理由がない。
(久礼田 武田 石井文)
註 本件破棄は量刑不当。